日本文書スタッフブログ

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大切なものを特別な方法で綴じる ~Part1 1枚のもの①


「綴じる」ということばを調べてみました。
綴じる/綴る:「とじる」は、ばらばらのものを一つにする意に重点がおかれる。
「つづる」は、紙などを重ねて糸などを通して本のようにまとめる意。複数のものをつなぐ意に重点がおかれる。
英語ではbind

英語の意味を調べてみると
Bind:縛る・巻きつける・結ぶ・包む・束ねる・固める・一緒にする・繋ぐ・製本する・装丁する・縁どりする

私たちは自分たちのことを「綴じるプロです」と紹介することがあります。

これからブログで何回かに分けて、綴じるプロである私たちがご提案する「大切なものを綴じる」についてご紹介したいと思います。

第1回目にご紹介するのは「一枚の物」
一枚の物といって思い浮かぶのは・・・
絵画や版画、書、写真、手紙、はがき、詩、などでしょうか。
皆さんはこういった大切な一枚の物はどのように保管、保存されていらっしゃいますか?
額装して飾ったり、美しい箱に保管したり、という方が多いと思います。

私たちはときどき、「大切なものだから美しく装丁してほしい」というご相談を受けます。

今回は「犬の十戒」

犬の十戒(いぬのじっかい、The Ten Commandments of Dog Ownership)は、作者不詳のまま広く世界に伝わっている英文の詩で、日本では「犬の十戒」として知られているが、実際には原典があり、ノルウェーのMrit Teigenというブリーダーが犬の買い手に渡している「犬からご主人への11のお願い」が元である。 ペットとして飼われることとなった犬と人間との望ましい関係を、犬が人間に語りかけるという形式で訴える内容である。
Wikipediaより


この素敵なメッセージをいつでも心に置いておけるようにしたいというご要望です。
紙に起こすのは味気ないし、何か良い方法はないか?
今回はこのメッセージを1枚のものとして作成するところから始めます。

犬の十戒が作者不詳であるということ、またヨーロッパから世界へ広がったということからイメージをふくらませます。

今回私たちが素材に選んだのは「羊皮紙」
羊皮紙とは、羊や山羊(やぎ)の皮で作られた半透明ないしは不透明な獣皮で、書写材や印刷用紙、また製本材として使用されてきました。羊皮紙の起源は、紀元前200年ころまでさかのぼります。とても耐久性があり、3世紀末から4世紀になると、西欧では主要な書写材となり、その地位は中世も変わりませんでしたが、15世紀以降その地位は紙にとってかわられ、羊皮紙などが使用される機会はしだいに減っていきました。現在でも遺言状や証書などの書写材に使用されることが稀にあるそうです。

羊皮紙は羊(または他の動物)の皮を木枠に張って限界まで伸ばし、ナイフで削って薄くして乾燥させたシート状のもの。
そのようにして作られた羊皮紙は、皮でありながら紙のように張りがあり、かつインクや絵具のしみこみが紙よりも少ないため、顔料がくすまず鮮明な色彩を保ちます。
また、きちんと管理すれば羊皮紙に書かれた文書や細密画は1000年以上も本来の色彩を保ちながら残ることができるそうです!


紙は一般的に表裏同じ色、テクスチャですが、羊皮紙は表裏に違いがあります。
動物の皮には、「毛側」(銀面とも呼ばれる)と「肉側」という表裏の区別があります。つまり、毛がついていた側と、肉にくっついていた側があるのです。一般的に、毛側は若干色が濃く、毛穴の跡や色の濃淡が目立つ場合がありますが、肉側は白に近い色で、スムースです(スエードのように若干毛羽立っていることもあります)。

また、毛側と肉側では繊維の伸び縮みの率が違いますので、下の写真のように毛側に若干カールしたり、うねっていたりする場合があります。


独特の風合いがあり、1枚1枚違った表情を見せるこの魅力的な羊皮紙、本当はぜひとも素敵なペンとインクを使用し、手書きで犬の十戒をしたためたいところではありますが、
今回はアンティーク調のカリグラフィー書体を選択し、版を作成しました。
カリグラフィー書体は美しい書法、という意味をもち、その美しさから古くは観賞用にも使用された書体です。大切な文章を表現するのにぴったりだと期待が高まります。

通常の箔押しは、上から熱と圧をかけるため、立体感は凹みとなります。今回はより手書きのインクらしさを表現したかったため、エンボス加工を施しました。


エンボス加工では、一度箔押しを施した後、同じ位置に凸用の版を敷き、再度熱と圧をかけます。手作業で全く同じ位置に2度熱と圧をかけるのはとても難易度が高く、また羊皮紙も一点物であるため、現場の緊張感はとても高まっていましたが、
この加工のおかげで起筆・終筆部分に残るインクの溜りや、やや掠れのようにも見える印字の濃淡が立体的に絶妙に表現され、まるで手書きのような、とても満足のいく美しい仕上がりとなりました。


今回出来上がったこの羊皮紙をどのように綴じていくのか、これから引き続きご紹介いたします。
お楽しみに!