日本文書スタッフブログ

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大切なものを特別な方法で綴じる~Part1 1枚のもの②

この連載では、綴じるプロである日本文書がご提案する「大切なものを綴じる」をテーマにご紹介しています。
前回のブログでは、「大切な1枚」をどのように形にするか、についてご紹介しました。
今回は表紙について取り上げたいと思います。

わたしたちは「綴じるもの」の「使い方」によって表紙の素材やデザインを考えます。
外側の豪華さだけを追求するのではなく、まず「何を綴じるのか?」「どんな使い方をするのか?」といったお客様の背景を含めた用途や目的を知り、理解するところからスタートします。なぜならば、その背景・用途・目的(中身)とそれを表す(外側)のバランスを大切にすることを基本としているからです。



1、ひと目で本革と分かる風合い牛ヌメ革
2、自然の贈り物・ナチュラルスタンプ
3、アンティーク調ミシンのように見えるこの機械とは?
4、ワンストップから生まれる「表紙デザイン」
5、デザインを通じて、お客様の想いを実現する
6、箔押し印字用にかかせない凸版
7、箔押しの技術・熟練の製作技術職にとっても真剣勝負
8、アンティーク調の背バンドをあしらって


1.ひと目で本革と分かる風合い牛ヌメ革


ナチュラルな風合い、上質感と風格、素朴な匂いやなめらかな手触りのヌメ革。
植物の渋に含まれる成分・タンニンで牛の原皮をなめし、表面加工を施さずに仕上げた革のことです。
この手法はタンニンなめしと言われ、仕上がった革は「革の中の革」とも呼ばれます。
ヌメ革はキュッと締まった頑丈な革です。使い込んでいくほどに柔らかくなり、手に馴染んできます。



2.自然の贈り物・ナチュラルスタンプ

ヌメ革には、牛がもともと持っていたキズやシワなどの自然の刻印がそのまま残されています。
ナチュラルスタンプと呼ばれるものです。
表面加工を施さないヌメ革は、他の革よりもナチュラルスタンプがはっきりと現われ、それは一枚一枚の個性や味わいでもあります。
本の表紙には、キズやシワなどの自然の刻印の少ない部分・きれいなところを厳選して使います。使用できる箇所が限られているうえに、見極める時間もかかるため「高価な素材」を代表するひとつにもなっています。



3.アンティーク調ミシンのように見えるこの機械とは?


表紙に使う本革の加工で大切なのは「厚さ」です。表紙の内側に巻き込む部分が凸凹にならないように、プロの技術できれいに革の厚みを調整していきます。


::製作技術部門から::
本革はとても厚いため、表紙として使用するためにまずは全体を革漉きして薄くすることが大切です。
ベタ漉きで均一な厚さになるよう整えたあと、周囲のまくる部分は芯材や表紙とのバランスを見ながら、さらに薄く漉いていきます。


アンティーク調ミシンのように見えるこの機械は「革漉機」と呼ばれるカミソリの役割をする機械です。「革をすく」というシンプルで昔から変わらない技術が活きてくる工程です。
「どのくらいの厚さにするのか?」「どのくらいの範囲で均一にするのか?」という点が重要で、
長年の経験や製本の知識が必要です。

::製作技術部門から::
まくり部分のコバ漉きはすっきりさせ過ぎると、重厚感や高級感を損なうこともあるので注意が必要です。本革の良さを保ちながら本の仕上がりイメージに合わせて慎重に厚さを決めていくことを大切にしています。まくり処理の工程が「本の表情」を左右します。スタイリッシュ・カジュアル・重厚感など、どのような顔にもできる工程です。



4.ワンストップから生まれる「表紙デザイン」


表紙の素材を選んだあと、つぎはデザインを決めていきます。
日本文書では「設計デザイン部門」「製作技術部門」「営業部門」が三位一体となって、いつも向き合っていることがあります。
それはとてもシンプルなこと。
「プロとして、お客様のイメージ以上のものを形にすることができるか?」です。



5.表紙デザインを通じて、お客様の想いを実現する


営業担当は、お客様のバックグラウンド、会話や雰囲気、表情に潜んだニーズを読み取り、常に一歩先をいくことで「お客様の本当の希望とは?」を考えます。
またそれにプロの視点を加えて、どんな風に使用するのか、という視点から、綴じ方、素材について提案をしたり、時にはお客様と一緒に考えたりもしていきます。

デザイナーは営業のヒアリングを受け、「綴じるもの」はもちろん、お客様の雰囲気や趣味嗜好などの総合的なイメージを「デザイン」に落とし込みます。

製作技術者は、デザインが実際の加工技術として表現可能かどうか?といった次の工程を想定します。「イメージを形にしたとき、どんな仕上がりになるのか、実際はどのような表現になるのか」
長年培った経験により、実際の仕上がりをイメージすることができるのです。

まさに三位一体。
ワンストップで進めるからこそ、お客様の想いを実現することができるのです。


::製作技術部門から::
お客様のイメージやニーズをまずは営業が引き出す、それをデザイナーが視覚化します。
イメージ通りに形にすること、実現することが製作技術職の腕の見せどころでもあります。


今回は「犬の十戒」にふさわしい重みのあるデザインとして、アンティーク調をベースにヨーロッパの古書をイメージしたデザインにしました。



6.箔押し印字用にかかせない凸版


デザインが決まれば、つぎは箔押し用の凸版を作製します。
凸版は用途や素材に応じて、プラスティックから銅版まで様々な種類があります。
よく使用されるのは、一般的に高級とされている銅板と、銅板に比べると安価なマグネシウム版の2つです。これらは、温度と素材のやわらかさによって使い分けます。

銅板は、耐久性、耐熱性ともに最も高く、硬い素材や美しく箔押しするために温度を高熱にする必要があるものに向いています。

マグネシウム版は、主に紙や本革などに使用されます。
今回選んだヌメ革は、とてもやわらかく、およそ100℃の熱で美しく箔押しができるため、マグネシウム版を使用することにしました。



7.箔押しの技・熟練の技術者にとっても毎回真剣勝負


箔押しは、温度、プレスの圧力、加減、タイミングのバランスがとても大切です。
「数度の温度差」「プレスの加減」「接地時間」と製本加工の中でも熟練の技術が必要とされる工程です。
接地時間は、ほんの僅かな差でも結果が大きく異なる、コンマ何秒かの世界。
本革は、―枚―枚やわらかさも異なります。
練習に使えるのは、切れ端の革のみ。ほぼ一発勝負で技術職の技を魅せます。

::製作技術部門から::
温度は高すぎるとベタっとついてしまい、低すぎるとかすれてしまいます。
素材と箔の相性で、適切な温度を決めることが大切です。
プレスの圧もかけすぎると、深すぎてやぼったくなったり、線が太くなりすぎてしまったり、細い部分が潰れてしまったりします。
細い部分に合わせて圧を弱めると、ベタ部分がかすれてしまうので、デザイン全体をよくみて、最適な圧のかけ方を見極めることが必要です。
ごくわずかなタイミングによっても仕上がりを左右します。
失敗やテストができないため、条件をイメージして計算しつくしてから挑んでいます。



8.アンティーク調の背バンドをあしらって


背表紙にも箔押しを施し、完成です。
少し遊び心も加えて、背中には犬の十戒にちなんで「肉球のデザイン」をあしらいました。


「大切なものを特別な方法で綴じる Part1 1枚のもの②」いかがでしたでしょうか? 表紙へのこだわり、営業、デザイナー、製作技術職をはじめとする日本文書の綴じるプロたちの技や想いがそこにあります。次回は、ルリユールをルーツとする手製本について、ご紹介していきます。