大切なものを特別な方法で綴じる~Part1 1枚のもの③
- CATEGORY: 技術紹介 ~製本技術
この連載では、綴じるプロである日本文書がご提案する「大切なものを綴じる」をテーマにご紹介しています。
前回のブログでは、大切な1枚を綴じるための装丁の顔である「表紙」についてのこだわりをご紹介しました。
今回は番外編として、1枚のものではなく、本を綴じる方法である伝統的な手製本について取り上げたいと思います。
17世紀の職人技を感じる手製本

1、ルリユール(Relieur)をルーツとする手製本
2、工芸品と呼ばれる所以とは?
3、重厚感のあるアンティーク調の仕上がりに

手製本は、江戸時代末期にヨーロッパから伝わった技法です。
これは17、18世紀のヨーロッパで、特に職人が手作業でつくる工芸品としての装丁や技術を指す「ルリユール(Relieur)」から伝わるもので、日本では、「手製本」「製本工芸」と呼ばれる技術です。
印刷が普及していない時代、本はとても高価で一部の貴族だけが手にすることができるものでした。
西洋、特にフランスでは、貴族が所持している書物に、羊や山羊、仔牛の革を貼り、さまざまな装飾を加えて美しく装丁を施す職人がおり、購入した本は、職人に頼んで製本することが一般的でした。
また、上流階級の婦人たちが職人の技術にならって家庭内で書物を製本することも多くあり、日本の茶道や華道のように、フランスでは現在でも伝統的なお稽古事の一つとして嗜んでいらっしゃる方も多いそうです。
当時の豪華な表紙などからは、彼らの美意識と文化を感じることができます。

紙をとじるときに日本文書で使用しているのは「楮(こうぞ)」と呼ばれる植物の茎。和紙の原料にもなるものです。楮は麻や雁皮に比べて華やかさに欠ける部分もありますが、とても丈夫で、重要な公文書や経典・書籍など長期間の保存を要する文書を綴じるのに最適な材料として、古くから使われてきました。薬品を含む化学素材薬品を使用しないことが、変色や変質などの劣化を防ぎ、長期保存を可能にする鍵となります。
手製本では、このように材料の一つ一つにも目的に合わせてこだわりを持ち、厳選した材料を用いて1冊ずつ手作業で仕上げていきます。各工程にはそれぞれ確かな技術が必要であり、製本家は愛情と誇りを持ってその1冊と向き合います。
これが手製本が商業出版とは一線を画し、製本工芸と呼ばれる所以です。

::製作技術部門から::
丸背加工について、今回は洋書をイメージしてバッキングという技法を用いず(耳出しをせず)背中を丸く仕上げました。
いわゆる耳(ミミ)、銀杏(イチョウ)と呼ばれる溝のない仕上がりです。
丸み出しも手作業で行いますので、背部分のアールの角度により本の表情、佇まいに変化を出すことができます。本の個性が出せるポイントの一つでもあり、技術者のセンスが問われる工程でもあります。

伝統的な背バンド製本は、本の背部分に綴じ糸が突き出し、突き出た背綴じ紐に背バンドペンチを使用して表紙の革をきっちりと固着させるため、背表紙に綴じ糸の膨らみが出ます。
今回は製本方法の関係で、綴じ糸は突き出していませんが、敢えてアンティーク調の仕上がりにするため、背バンド綴じを意識した装丁デザインを施しています。
いかがでしたでしょうか?今回は、1枚のもの の番外編として、ページが多いもの、枚数の多いものを綴じるときの伝統的な製本方法についてご紹介しました。綴じる紙が300枚ほどあると、写真のように重厚感のある見た目に仕上がります。
次回は「綴じたいものが1枚のとき」はどんな方法で形にするのか、どんな形に完成するのか、最終回としてお届けします。
前回のブログでは、大切な1枚を綴じるための装丁の顔である「表紙」についてのこだわりをご紹介しました。
今回は番外編として、1枚のものではなく、本を綴じる方法である伝統的な手製本について取り上げたいと思います。
17世紀の職人技を感じる手製本

1、ルリユール(Relieur)をルーツとする手製本
2、工芸品と呼ばれる所以とは?
3、重厚感のあるアンティーク調の仕上がりに
1.ルリユール(Relieur)をルーツとする手製本

手製本は、江戸時代末期にヨーロッパから伝わった技法です。
これは17、18世紀のヨーロッパで、特に職人が手作業でつくる工芸品としての装丁や技術を指す「ルリユール(Relieur)」から伝わるもので、日本では、「手製本」「製本工芸」と呼ばれる技術です。
印刷が普及していない時代、本はとても高価で一部の貴族だけが手にすることができるものでした。
西洋、特にフランスでは、貴族が所持している書物に、羊や山羊、仔牛の革を貼り、さまざまな装飾を加えて美しく装丁を施す職人がおり、購入した本は、職人に頼んで製本することが一般的でした。
また、上流階級の婦人たちが職人の技術にならって家庭内で書物を製本することも多くあり、日本の茶道や華道のように、フランスでは現在でも伝統的なお稽古事の一つとして嗜んでいらっしゃる方も多いそうです。
当時の豪華な表紙などからは、彼らの美意識と文化を感じることができます。
2.工芸品と呼ばれる所以とは?

紙をとじるときに日本文書で使用しているのは「楮(こうぞ)」と呼ばれる植物の茎。和紙の原料にもなるものです。楮は麻や雁皮に比べて華やかさに欠ける部分もありますが、とても丈夫で、重要な公文書や経典・書籍など長期間の保存を要する文書を綴じるのに最適な材料として、古くから使われてきました。薬品を含む化学素材薬品を使用しないことが、変色や変質などの劣化を防ぎ、長期保存を可能にする鍵となります。
手製本では、このように材料の一つ一つにも目的に合わせてこだわりを持ち、厳選した材料を用いて1冊ずつ手作業で仕上げていきます。各工程にはそれぞれ確かな技術が必要であり、製本家は愛情と誇りを持ってその1冊と向き合います。
これが手製本が商業出版とは一線を画し、製本工芸と呼ばれる所以です。

::製作技術部門から::
丸背加工について、今回は洋書をイメージしてバッキングという技法を用いず(耳出しをせず)背中を丸く仕上げました。
いわゆる耳(ミミ)、銀杏(イチョウ)と呼ばれる溝のない仕上がりです。
丸み出しも手作業で行いますので、背部分のアールの角度により本の表情、佇まいに変化を出すことができます。本の個性が出せるポイントの一つでもあり、技術者のセンスが問われる工程でもあります。
3.重厚感のあるアンティーク調の仕上がりに

伝統的な背バンド製本は、本の背部分に綴じ糸が突き出し、突き出た背綴じ紐に背バンドペンチを使用して表紙の革をきっちりと固着させるため、背表紙に綴じ糸の膨らみが出ます。
今回は製本方法の関係で、綴じ糸は突き出していませんが、敢えてアンティーク調の仕上がりにするため、背バンド綴じを意識した装丁デザインを施しています。
いかがでしたでしょうか?今回は、1枚のもの の番外編として、ページが多いもの、枚数の多いものを綴じるときの伝統的な製本方法についてご紹介しました。綴じる紙が300枚ほどあると、写真のように重厚感のある見た目に仕上がります。
次回は「綴じたいものが1枚のとき」はどんな方法で形にするのか、どんな形に完成するのか、最終回としてお届けします。